不動産を購入すると相続税が安くなるって聞いたけど本当かしら?
税金が安くなると言われている仕組みを解説します!
相続税の仕組み
相続税は、”プラスの財産”と”マイナスの財産”を把握することから始まります。
プラスの財産からマイナスの財産を差し引いて、プラスならば相続税の計算スタート。マイナスであれば申告が不要といった形になります。
次の条件下で相続税の計算を行います。
・相続人 2名(配偶者なし) ・財産 預貯金 2億円 ・相続税額 3,300万円
この場合の相続税は、なんと3,300万円ほど!
高いと思うか安いと思うかはあなた次第ですがいかがでしょうか?
預貯金を賃貸用アパートに変えてみた
では先ほどの条件を少し変えてみます。
土地5,000万円、建物5,000万円の賃貸用アパートを購入したとします。
おカネが不動産に変わります。
・相続人 2名(配偶者なし) ・預貯金 1億円 ・土地(賃貸用アパート) 5,000万円 (購入後3年以上経過、地積200㎡、借地権割合60%) ・建物(賃貸用アパート) 5,000万円 (借家権割合30%)
所有している財産の状況が変わりました。不動産の条件に見慣れない言葉が登場したかと思いますが、後ほど解説します。
このような場合、税理士の現場では何が起こっているかを順次解説していきます。
第三者の権利の存在
賃貸用アパートを購入した場合、その後に待っているのは誰かに”貸す”という行為。この行為が非常に重要になってきます。
誰かに貸した場合、借主に居住権などの権利が発生します。
”1つの不動産に対して、2人以上の権利を主張できる人間が存在する”という状況が生まれます。
イメージは次の図。
burokこのような場合、その土地・家屋を自由に利用することに制限がかかるので、その分評価を落としましょうねというのが今回のからくり。
そのときに相続税法上の評価額を落とすために出てくる係数が、先ほどの条件に記載した借地権割合・借家権割合ということになります。
実務の現場では次のように計算をしております。当初2億円だった資産がなんと、1億7,600万円に減少しました。その結果相続税額も同様に減少しております。
3,300万円→2,620万円
・相続人 2名(配偶者なし) ・預貯金 1億円 ・土地(賃貸用アパート) (購入後3年以上経過、地積200㎡、借地権割合60%) 5,000万円×60%×30%=4,100万円 ・建物(賃貸用アパート) (借家権割合30%) 5,000万円×70%=3,500万円 ・相続税額 2,620万円
特例の存在
実はまだ説明が不十分です。申し訳ございません。
世の中には特例というものが存在します。それが小規模宅地の特例と呼ばれるもの!
詳細は国税庁のHPを見ていただきたいのですが、ざっくり説明すると条件を満たす場合は、土地の評価額を下げていいよ。というもの。
個人が、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族(以下「被相続人等」といいます。)の事業の用または居住の用に供されていた宅地等(土地または土地の上に存する権利をいいます。以下同じです。)のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、下記の「減額される割合等」の表に掲げる区分ごとにそれぞれに掲げる割合を減額します。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁 (nta.go.jp)
注意点としては、税金を計算するうえでの数字を下げるだけであって、実際の価値を下げているわけではないということ。
賃貸用アパートの場合は、200㎡まで、50%減額することができるので、先ほどの条件に当てはめます
・相続人 2名(配偶者なし) ・預貯金 1億円 ・土地(賃貸用アパート) (購入後3年以上経過、地積200㎡、借地権割合60%) 5,000万円×60%×30%=4,100万円 4,100万円×200㎡/200㎡×50%=2,050万円 ・建物(賃貸用アパート) (借家権割合30%) 5,000万円×70%=3,500万円 ・相続税額 2,005万円
ここ条件下で、計算をすると資産の総額が1億5,550万円となり、相続税を計算すると約2,000万円になります。
評価減の要素はまだまだあるぞ!
ここまで計算を簡略化するために、複雑な要因は排除してきましたが、土地の評価を下げる要因はまだまだあります。
今回そもそも土地の計算を購入価額5,000万円でスタートしていますが、相続税の計算では買ったときの金額ではなく、土地の形状、大きさ、道路付けなんかを考慮して評価額を出していきます。そのときの数字は、おおよそ時価の8割と言われています。
また建物も購入価額5,000万円でスタートしていますが、経年劣化が考慮されます。実は買った瞬間から中古扱いで、だいたい購入価額の7割くらいから年数を考慮して評価額が算出されます。
フルフルで要素を組み込んでいくと次のような形になります。どんどん要素が増えていって本当にややこしい…。
このあたりの計算は本当に複雑で、今回のパターンも再現性はありません。ご留意ください。
結果、相続税が不動産を購入した効果により、当初の半分となりました。
・相続人 2名(配偶者なし)
・預貯金 1億円
・土地(賃貸用アパート) (購入後3年以上経過、地積200㎡、借地権割合60%)
①基本額算定 5,000万円×80=4,000万円
②権利割合考慮 4,000万円×60%×30%=3,280万円
③特例適用 3,280万円×200㎡/200㎡×50%=1,640万円
・建物(賃貸用アパート) (借家権割合30%)
①基本額算定 5,000万円×70%=3,500万円
②権利割合考慮 3,500万円×70%=2,450万円
・相続税額 1,578万円
このあたりの計算は本当に複雑で、今回のパターンも再現性はありません。ご留意ください。
相続対策なのか相続税対策なのか
現金1億円は持っていても1億円のままですが、不動産に変えることによって今回のパターンだと1億円が4,100万円の不動産に変わりました。
今回はその差額によって、総資産が減り、連動して相続税が減るというのが仕組みになります。
じゃ今すぐにでも不動産を購入したほうがいいわね~。
相続税の計算では現預金で持っているより、不動産に変えた方が節税が図れることが確認できたかと思います。当然このような対策をした方がいい場面というのはあるかと思いますが、果たしてそれでいいのか?という場合があるのもまた事実です。
例えば次のような場合はいかがでしょうか。
・物件を購入したはいいものの、引き継ぐ相続人が遠方にいて管理ができない。 ・不動産を引き継ぐ意思が相続人にそもそもない。 ・相続人同士の仲があまりよくない。
このような場合、相続人ために節税を図ろうと不動産を購入したものの、相続人の人生設計の足枷になってしまう恐れがあります。
つまり不動産購入によって税金は確かに減って”相続税対策”にはなっているものの、残された側の気持ちが考慮されていないので、本当の意味での”相続対策”にはなっていません。
税金対策は一人でもできるかもしれませんが、本質的な相続の対策のためには残される側との話し合いも必要かと私は考えます。
よりよい相続を。
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